クラウドット株式会社の中山です。松本市大手でコワーキングスペース「Knower(s)」(ノウアーズ)を運営しています。
2013年3月1日に当時、松本市で初めてのコワーキングスペースとして開所しました。開所から県内県外のいろんな方から「コワーキングを始めたいので見学できますか?」「コワーキングスペースの運営について話を聞きたい」という問い合わせを受けます。
おそらく今後もコワーキングスペースは増えていくと思いますし、そういうコミュニティが多い地域はパワーがあっていいと思いますので、積極的に情報提供していきたいと思っています。コワーキングスペースを松本市で初めてもうすぐ3年。
今後コワーキングスペースを開所されたい方のために、何か役立つ情報を書ければと思います。
コワーキングスペースとは?
最近では長野でも「コワーキングスペース」という単語は耳慣れてきた感がありますが、「Knower(s)」を当初始めた際には、「コワーキングスペース」という言葉の意味をいちいち説明しなければならず、説明しても分かったような分からないような、そんな微妙な雰囲気になることもよくありました。
私が「コワーキングスペース」を説明するときには「コワーキングスペースとは個々の人が仕事スペースとして独立して働いたり、協働して働いたりすることができるスペースで、シェアオフィスのように単に場所として使うのではなく、コミュニティをつくったりして異業種交流ができる環境を常に提供するスペースです。」という感じで説明します。
コワーキングスペースという言葉に対しては解釈が分かれるところですし、「異業種交流」という言葉には若干違和感ありますが、メリット面を伝えるのに万能で一番ニュアンスが伝わりやすいと思っています。
単なるスペースではなく何か生まれそうな場所、、、
そんな雰囲気が「コワーキングスペース」にはあると感じてもらえればと思っています。
地方でコワーキングスペースを始めるときに大事な7つの要素
1. いろんなコワーキングスペースを見る
コワーキングを始める際、多様なコワーキングの特色とオーナーを理解しておくと思い通りユーザーが集まらないときにも改善するヒントになります
私もコワーキングスペースを始める際には各所のコワーキングスペースを利用しました。
特に渋谷の「DOTS」の北川さんや「サムライインキュベート」の榊原さん、伊那市の「DEN」の佐藤さん、にはいろんなアドバイスや情報をもらいました。
どんなイベントで集客をしているか、どのようにマネタイズしているか、立ち上げ当初の経営の中身など、情報はクローズするのではなくシェアすることにより価値が高まり、つながりの可能性を広げるられることを、オープンにシェアする感覚はコワーキングスペースが持つ可能性の一つだと思いました。
でもその当時でも都内においてさえコワーキングスペースのマネタイズが厳しいということは分かりました。
人口24万人の松本でコワーキングスペースがどれだけ潜在的ニーズがあるか分かりませんでしたし、資金的体力のある企業ではなかったので、この事業のメリットデメリットに関してはかなり考えました。
明らかにコワーキングスペースの回転率などで収益化することは難しく、普通だったらやらないビジネスモデル。
でも地方が全般的に抱えている課題と「コワーキングスペース」が持つオープン性や多様な働き方の一つとしての可能性を考えると、これは地方でやるべきだと思いました。
2. コーディネーターが大事
コワーキングスペースはコミュニティベースでひろがることが多いので、人が人を集める、そんなアナログな側面が強く、単純に場所があっても人は集まりません。
コワーキングスペースはコーディネーターが機能しないと単なるカフェと変わらないですし、コーディネーターの持つデフォルトの情報収集能力とキュレーターとしてのバランス感覚やとても重要だと思います。
地方においてはコワーキングスペースが中間組織的な役割を担うケースがよくあると思います。
Knower(s)においては、創業支援や移住・空き家対策・就業支援など行政や地域機関・団体、社会起業家に対してアイデアや情報をつなぐ役割をすることが多く、コワーキングスペースの場所としての活用ニーズよりも、情報集約や発信に対する役割需要が高いと感じています。
キュレーション能力が高くしかもあまり地方のしがらみに捉われないコーディネーター人材を地方で見つけることは非常に難しいですが、外の感覚を持つコーディネーター配置し、いろんな視点を地域に提供できるかが地方のコワーキングスペースの重要なミッションだと思います。
3. 立地
いかに初期費用と固定費を抑えるかというのが重要課題です。
場所・・・これはどんな課題解決を優先させるかにより異なると思います。
郊外の方が駐車場もあり場所代も安価に抑えられます。
しかし多くの人に「コワーキングスペース」を認知してもらい集客するためには、人が集まりやすい市街地に立地している方がいいですよね。
Knower(s)は「まちづくり」に近いところがいいという考えから、以下のような条件で駅前付近で物件を探しました。
・通り沿いにあって説明するときもわかりやすい
・商店街などの観光客や地域の人がよく通る場所
・自由に改装等ができる
・登記や住所利用などが使える
・できれば駐車場がある
・安い
結局Knower(s)は現在の場所になったのですが、お客様用駐車場がありません。
車社会の地方において駐車場がないのはかなりデメリットです!
特に松本は駐車場が高くしかも需要数に対して供給が足りない。
でも今の場所は認知度のない「コワーキングスペース」が一般の人にも認知してもらうのには良かったと思います。
今後地方は中心市街地に人が集まり経済が回る構造を作らないといけないと個人的には思っているので、そのようなまちづくりの一部としてコワーキングスペースが中心市街地にあることの存在意義はあると思っています。
4. コストとマネタイズ
固定費はできるだけ削りましょう。(当たり前ですが・・・)
初期費用もそうですが、家賃なランニング時に必ず出て行く固定費を抑えることは最初しかできないことなので、大事だと思います。
Knower(s)は元々内装は全面木目のいい雰囲気だったので、天井を抜いたり、エアコンの入れ替え、トイレの全面改装、机や椅子や諸々備品購入などを含めて、初期費用をいろんな方のご協力もあり初期費用を100万円程度で抑えることができました。
家賃はオープンにはできないのですが、入居の際の初期費用を負担する代わりに賃料を近隣のテナントに比べて安くしてもらいました。
正直、立ち上がってから数ヶ月は人件費、家賃、諸経費を含めて毎月50~60万円程の赤字をただ垂れ流していました。
待っていてもダメなので何か稼ごうと思い「信州リンゴスター」なるものを販売してみたり、企画営業回ったりしましたが、そうすると外に出なければいけなくなりコワーキングスペースが空いていないという本末転倒ぶりでした。
マネタイズに関してはKnower(s)は未だ黒字化ができていないので、アドバイスできるようなものはないのですが、経営が成り立っているコワーキングスペースを見ると、マネタイズするために必要な設備があると思います。
以下のものを用意できればマネタイズがしやすいのではないかと思います。
個ブース
コワーキングスペースは人がいないと人が集まらないので、常にスペースに行けば人がいるという状況を作る必要があります。
個ブースは固定収入になり且つコワーキングスペースに人が常駐する状況を作りやすくなります。
シェアオフィス
これは個ブースの部分と重なるのですが、固定収入を得るためにシェアオフィス機能と併設するといろんな業態の事業者が入りやすくなり、シナジーも見込めます。
ミーティングルーム/セミナールーム
機密性の求められる商談なども対応できれば利用率が高まりますし、地方においても意外と会議室需要はあります。
24時間利用できるセキュリティ設備
会員などはいつでも利用できるようにカードキーなどを導入し、利便性を高めるとこれも利用率を高めます。
その他、経営が成り立っている地方のコワーキングスペースを見ると創業支援などをしている士業がやっていたり、Web系の企業が社内の一部をコワーキングとして解放しているなど、本業のシナジーのある事業としてコワーキングスペースを運営しているケースが多いです。
本業のオプションとして稼ぐかor個ブースやシェアオフィス契約などでベースとなる固定収入を作れるよう計画してみましょう。
5. オーナーの理解
新しい事業に対して物件のオーナーに理解してもらっておくのは大事だと思います。
いろんな意味で場所として注目が集まりますので、周辺の目線や噂がオーナーにも聞こえてしまいます。(田舎のいいところでもあり息苦しいところでもあります。)
怪しいビジネスを引き込んでいるんじゃないかとか、若い者がいっぱい集まっていて大丈夫か?みたいな地方ならではの監視システムが働いて良くも悪くもレガシーな人々に気を使わせてしまうんみたいです。
物件探しを始めた時はいろんな候補のオーナーに当たりましたが、「コワーキングスペース」という業態を説明してもなかなか場所を貸してくれる、オーナーさんはいませんでした。
最終的に今のオーナーは地元の古い方ですが、交渉時に「どんなことをしたいか」ということを滔々とプレゼンして、今は応援してもらっています。
地方でも借りようとする場所や地域などにもよるかと思いますが、オーナーと直接いろいろ相談できる関係性があると安心して運営ができます。
6. イベント
コワーキングをスタートさせた当初、どうやって集客すれば良いのか悩んでいましたが、「サムライインキュベート」の榊原さんからもらったアドバイスが「イベントをやりまくれ」というものでした。
やはりコワーキングスペースがどういう場所か、どういうメリットがあるかは来てもわないと分からないので、一つのきっかけ作りとしてイベントを多角的にやりました。
2013年の12月から2014年の12月までの間でイベントを176回企画開催し、集客数は1,849人に参加してもらいました。
大体週に 3〜4回はイベントやっているという・・・
集客数は少ないと思うかもしれませんが、スタートアップやキャリアアップなどにつながるかなり絞ったイベントを集中させているので、地方にとってはそれなりにインパクトのある数字だと思います。
現在はイベント数を少し落としていますが、週に2~3回はイベントを実施しています。
イベントにより信濃毎日新聞や市民タイムスなどの地元の地方紙、コミュニティFMやラジオなどに定期的に露出するようになり、「なんとかという松本市大手によくイベントをやっているスペースがあるらしい」というようなレベルの認知を地域のおばちゃん層にもしてもらえるようになりました。
またスタートアップを特色としたイベントを開催することにより、少しづつですがコミュニティが形成され、その中から自分でイベントを立ち上げたりセミナーを開催したりして、自然とスタートアップ支援になるという流れも出てきています。
7. 情報発信メディアをしっかり運用
コワーキングスペースを始めるといろんな情報が集まってきます。
地域やコミュニティの情報もそうですが自治体からも相談を受けたり、情報提供をいただいたりします。
WebサイトやFACEBOOKなどをしっかりと運用し情報を集約して発信することにより、コワーキングスペースは地域のキュレーター、メディアの一つになると思います。
最後に
地方においてコワーキングスペースは人材やコミュニティを集め、育成するインフラになれると思います。
先ほども書きましたが、地方のコワーキングスペースは創業支援や移住支援の中間組織としての機能を求められるケースが多いと思います。
コワーキングスペースは現在行政が注目する「クラウドソーシング」や「リモートワーク/テレワーク」、「フリーランス」、「女性の社会進出」、「多様な働き方」などのキーワードとの親和性が高いからです。
また地方の多くのコワーキングスペースはなんらかの異業種交流や事業創出、起業支援、経営支援などビジネス支援をしている場合が少なくないと思います。
地方創生の流れの中で多様な人材を集めるコワーキングスペースのコミュニティは、地方自治体にとって新しいモデルであり、より現代のニーズにマッチしたサービス提供を模索するためのテスト環境を持っています。
ここにもっと地方自治体との連携ができれば、縦割り行政が抱える幅広い課題を、違う視点を持ったコーディネーターが横串にすることにより、新たな課題の切り出しと課題への取り組みが可能になります。
Knower(s)では立ち上げ当初からのビジョンである「人やビジネスにつながるプラットフォーム」を目指して「行動する人を増やす」ために面白い人たちといろいろ仕掛けていきたいと思います。