クラウドット株式会社は2018年よりリモートワークを導入し、身体や時間、空間の非同期性を乗り越えて、どのようにチームとしてつながっていくかを試行錯誤してきました。アフターコロナの今、リモートワークからオフィスに回帰する社会の流れがある中で、あえて私たちのリモートワークという働き方をよりクリエイティブに表現したい、私たちが共有している有機的なカルチャーや価値観、視点を《物体》として存在させたいと思い、本展示を企画しました。
「社会にインスピレーションを与える」という私たちのミッションは、「世界をどのように認識するのか?」という問いから始まります。
私たちは一人一人が、自分自身の中にも複雑性を包摂する多元的な存在です。リアルとヴァーチャルの間の多様な価値観、同期できない身体と精神の生きづらさ、過去と未来を循環しながら新しい意味を更新し続ける文化、創造と生成の間にある対立などのように、私たちは意識的にそして無意識に、言葉や価値観を使って自分にとって無意味に思えるものを切り離し、自己認識の中に「意味ある世界」を創っているように思います。
世界は一つではない。
だからこそ世界と世界の間にある排除されたもの、私たちの外にあるもの、弱い意味を捉えようとする、その意思が重要なのだと思います。完全に分かりきれない前提を受け入れつつ、理解しよう、コミュニケーションしていこう、ということが私たちにとっての働き方であり、表現であり、クリエイティビティの根源的な欲望だと考えています。
Asynchronous-Opus:)
Mon. 9 December – Sun. 22 December,2024
Organized by | Cloudot Inc.
Art Design by | Mitsuki Sakai
Installation by | Atsushi Kobayashi
企画の出発点
クラウドット株式会社では、2024年を「作り手として社会とつながる」というテーマを持って、それぞれが業務に向き合ったり、社内のカルチャーについて語り合うことを行ってきました。今回の展示にあたり2つの点が私たちの表現の延長線上にあります。
1つは、私たちの働き方であるリモートワークで新しいことを生み出すことの難しさを常に感じていますが、しかしその可能性やそこから生まれる個々の創造性も感じています。
2つ目に、ChatGPTのインパクトから2年が経ち、AIが違和感なく社会に実装されている現実と革新的なテクノロジーが加速度的に生まれてきている瞬間瞬間の中で、AIと人間を分けるものについて、そしてAIと共生する社会における働き方や働く意味について考えていました。
世界は一つではない
その中で「多元世界に向けたデザイン ラディカルな相互依存性、自治と自律、そして複数の世界をつくること」という本と出会い、近代的世界観である「一つの世界=One World World」という価値観から、世界のローカルで存在する多元的な文化や視点を、そのままどのように受容していくことができるか、という多元的な世界の捉え方に、今後の私たちの働き方のヒントがあるように感じました。
物理の世界でも純粋に理論的な考察の段階ですが、世界は一つではないのではないか?という多元宇宙論があります。Googleの量子AI研究所が開発した量子プロセッサー「Willow」について公開されたが、その量子計算では多元宇宙論、いわゆる「マルチバース」という多数の並行した宇宙の存在の可能性についてより信ぴょう性を高めていると言われています。
多元宇宙の存在を直接観測することは不可能ですが、理論的には存在するかもしれない。個人的には、物理の世界でも現代の人類の現状認識においても、古代の仏教などの精神世界の上にも同様の思想が存在するというのは興味深いです。
人がつながりたいという欲望に突き動かされるのはなぜか?
世界は一つではなく、多様で、個人も複雑性を包摂してはいない存在であるからこそ、常に新しいことや違和感について理解したい、つながっていきたい、というような思いに向き合うことこそが、私たちの欲望なのではないかと思います。欲望とは、自分にとって謎なことであり、自分の想像を超えるものに対する渇望ともいえるかもしれません。欲望とはそれを満たそうとしても満たされず、むしろさらに増幅します。テクノロジーによる人類の変化は創造性を拡張させたい、新しい可能性に向き合いたいという欲望に突き動かされています。
2024年に公開された映画の中で、クリストファーノーランの「オッペンハイマー」ではテクノロジーに対する人類の欲望が描かれていましたし、A24の「シビル・ウォー アメリカ最後の日」ではフィクションではありますが、「どの種類のアメリカ人だ?」と対立構造の中で分断していく今のアメリカの危うさとリアルが埋め込まれており、より過激になっていく人類の増幅される欲望を描いているように思いました。
Asynchronous-Opus:)について
タイトルには実はあまり意味がありません。
私たちは毎年ZINEを制作していますが、そのテーマが「青/AO」でした。それは青がRGBのような基本的な色になっていたり、量子力学的に青のエネルギーが高いこと、そもそも地球は青い、など基本的な要素において青は重要な構成要素であること。そして好きな映画や会社の初期のロゴなど、原点の中に青という色があることから、「青/AO」をクラウドットにとっての原点と考えて、より原点に立ち戻るという意味合いで、ZINEのテーマにしました。
そのテーマとつなげたいと思った時に、A=Asynchronous、O=Opusと並べて意味合いを同期させたようなイメージです。しかし仰々しい単語になってしまったので、🙂という顔文字を入れることにより、少し茶化しているような、ゆるさを入れることにより、単なる表現として見てもらいたいというような空気感をタイトルのニュアンスに含めました。
作品については、α波(8~12Hz)、β波(13~25Hz)、γ波(25~26Hz)、δ波(0~4Hz)、θ波(5~7Hz)の5種類の脳波をプログラミングにより変換したLEDの光で「青/AO」の世界を表現しました。一定な明るさではなく、脳波をモデルにした多様な感情をトレースしたゆらめく《光の物体》、そして先にある弱い《光》にある複雑さを、ZINEのテーマであるモザイクアートを埋め込むことにより、世界の多元性と複雑さを表現しています。
展示を振り返って
2024年は私たちにとって新しい方向性を模索する年でした。テクノロジーとマーケティング、ビジネスなど変化が激しい業界にいる私たちにとって、アートというのは少し距離がある存在だと感じていました。
しかし変化が激しく、昨日まで無価値だったものが価値となったり、その逆もまた起こる時代の中で、私たちは何を表現したいのかを考えるのは重要だと思いました。言葉ではなく、自分たちが感じているもの、弱い信号を拡張させることは、新しいものを生み出すこと、そして新しいものと出会うことになると思うからです。
今回の展示については、「こんなことをすればよかった」、「こんなこともできた」という部分は多数ですが、まずアウトプットするということ、やってみるということにより、次につながる予感をしています。