20代、30代の若手30人で構成される経産省の次官・若手プロジェクトの「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」のレポートが話題になっています。
日本屈指のシンクタンクである経産省で、これからの日本を担うエキスパートたちがこの日本をどのように捉えているのか、そしてどんなアクションが必要と考えているのか分かりやすく書かれていました。
- 「弱くてかわいそうな」個人だけでなく、誰もが不安や不満を抱えている
- 個人の不安・不満をこのまま放置すると、社会が不安定化しかねない
- 「自由の中にも秩序があり、個人が安心して挑戦できる新たな社会システム」を創るための努力をはじめなければならないのではないか
- 「サラリーマンと専業主婦で定年後は年金暮らし」という「昭和の人生すごろく」のコンプリート率は、既に大幅に下がっている
- この数年が勝負。
- 最後のチャンス。
危機感と焦燥感にあふれた言葉が、並んでいます。このようなレポートや資料を見ると多くの人が「煽っている」「極論だ」と感じるかもしれません。
ただ今なされている多くの議論は時間軸としてのズレはあるにしても、いつか実現する事実だと捉えるべきだと私は思います。
実際にインドや中国などの発展途上国が大きな変革と大胆なテクノロジー導入を、先進国から見ると異次元のスピードで進めています。
今回はインドや中国が進めるモバイル決済・デジタル決済の動きについて書いてみます。
完全キャッシュレスを目指すインドの野望
2016年11月9日にインド政府はインド国内で流通している紙幣の約86%に相当する紙幣の流通を禁止しました。
この革新的な決断の震源はモディ首相。
テレビ演説で午前0時にこの発表を行い、わずか4時間後にはインド国内に出回る約86%の現金が無効となるという大胆な政策です。
インド国内の混乱ぶりは想像に難くないですが、そこまでしてこの政策を行ったモディ首相が目指すのは完全キャッシュレス。
2017年2月には50万円を超える現金決済の禁止の方向性を示し、キャッシュレスへの揺るがない姿勢を明確にしています。
キャッシュレスのメリット
そもそもなぜインド政府はキャッシュレスを目指しているのでしょうか?
- 汚職、脱税、不正蓄財、偽造となる「ブラックマネー」を排除
- タックス・コンプライアンス(納税義務の徹底)
- スマホや電子端末による取引により、貧困層への資源配分も効率的且つ正確に行うことができる
そもそもクレジットカード普及率が2014年度の時点でわずか5%のインドでのモバイルの普及率がすでに82%、デジタル決済が2020年には5000億ドル(約55兆円)に達すると言われています。クレジットカードやATMを飛び越えて、モバイル決済が銀行口座を持てなかった低所得層にも普及させ、インドがキャッシュレスにより経済成長をドライブさせることを意図しています。
因みに日本の2015年時点での個人消費に占めるクレジットカード決済比率は16%で、電子マネーを加えても22%弱しかないと言うことです。日本は完全にデジタル決済における後進国です。
(参考:クレジットカードの読みもの)
先進国を完全に超えているモバイル決済大国・中国
中国におけるモバイル決済は約600兆円と言われ、米国のモバイル決済額の50倍を超えています。中国では6億人のスマホユーザーのうち電子マネーユーザー数が3億6千万人で、約6割のユーザーが電子マネーを使っているということになります。(引用:CNNIC「第37回中国インターネット発展状況統計報告書」)
中国のモバイル決済を牽引しているのはAlipay(アリババ)とWeChat(テンセント)です。特にWeChatはメッセージアプリとして始まり、決済を取り込むことによりユーザー数を倍増させており、モバイル決済を利用したユーザー数では、8.3億人に上るというから、勢いの凄さがわかります。
逆に中国ではコンビニでの決済手段として現金は11%しか使われていないというデータもあるそうで、現金75%の日本との格差が明確になっています。
(参考:クレジットカードの読みもの)
デジタル決済が爆発的に普及する背景
中国やインドのように以前、途上国であった国では小さなお店や地方の家族経営店舗が、クレジットカード端末やATM端末などの導入・回線の整備に必要な予算を割くことは難しいことでした。そもそも比較的豊かな層しかクレジットカードなどを持てないですし、ATMは銀行口座を持っていない層には必要のないものでした。つまり導入コストの割に使える人たちが少なかったと言うことです。
しかしモバイルの普及に伴いモバイル決済環境が整い、カードよりもスピーディでかつ利便性が高いのでモバイルユーザーの多くがモバイル決済で取引するようになり、店舗側の導入コストを抑えてより多くの取引を行えるとあって、カードやATMよりも多くの産業と結びつき、商取引の総量を引き上げています。
まとめ
いかがでしたか?
アジアに目を向けるとテクノロジーにより大きなスケールとスピードで市場が変化し、数年前の途上国のイメージとは明らかに異なった印象を持つのではないでしょうか?
日本は大丈夫!と日本人は思い込みたいところありますが、やはりこのフィンテックの動き一つとっても日本は規制や既存大手事業者の優位な制度が壁となり、テクノロジーや新たなビジネスの成長を阻んでしまっているところが多分にあると思います。
AI、ロボット、フィンテックやシェアリングエコノミーなどグローバルな革新の流れを日本がどれだけグリップを握れるかが、今後の10年20年の日本の未来を大きく左右する課題だと思います。
参考記事:
「キャッシュレス社会」実現へ突き進む「インド・モディ政権」の超本気度–田中直毅
インドでモバイル決済急増、ATMなくなる?
電子マネーが中国席巻 取引額150兆円、日本の30倍