ゼロパーティデータとは?クッキーレス時代におけるeコマースのデータ活用を考える
ゼロパーティデータ(Zero Party Data)とは、ユーザー自身が提供するデータのことを指します。つまり、ユーザーが直接企業やブランドと情報を共有することによって得られるデータです。
ゼロパーティデータは、ユーザーが自分の情報を自発的に提供するため、データの品質や精度が高いという特徴があります。また、プライバシー保護の面でも有利であり、ユーザーが情報を提供することについての同意が得られているため、法的な問題も少なくなります。
例えば、ユーザーが自分の興味や好み、購入履歴などを企業やブランドと共有することで、よりパーソナライズされたサービスやオファーを提供することができます。ゼロパーティデータは、企業やブランドが第三者に依存することなく自社でのデータ収集し分析可能なデータなので、資産性があるともいえます。
本記事ではゼロパーティデータのデータ収集や活用事例について書いてみたいと思います。
なぜゼロパーティデータ(Zero Party Data)が注目されているのか?
一時期のD2Cブランドはひたすら広告予算を突っ込めば売り上げが上がるというのが定石でした。そのセオリーが通じなくなってきたのは、デジタル広告で活用されてきたデータに対する、プライバシーや個人情報保護への意識が高まっていることに要因があります。
iOS14.5のアップデートによるデジタル広告への影響
2021年4月のAppleによるiOS14.5以降のアップデートです。アプリのトラッキング制限によるデジタル広告の効果測定の精度が著しく落ちたことにより、多くのD2CブランドやEC事業者は、従来のデジタルマーケティング施策ではクリック率やコンバージョン数、ROAS、CPAなどを維持することができなくなりました。
実際には全ユーザーがiOSのアップデートを適用するまでのタイムラグや既に保持している広告データの活用可能期間などもあり、2022年になり、より多くのブランドが本格的にコンバージョンレートが低くなってきたことを実感し始めました。
特にFacebookやInstagramなどはユーザーの好みやライフスタイルなど、商品やサービスを選ぶ際にフックになるデータアセットを活用した広告マーケティングができていたので、iOSのアップデートによるデータの効果測定への影響は非常に大きい状況です。
プライバシー保護の世界的な潮流
EUによるGDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法)など、世界では個人データの保護に関する法律が整備されてきました。日本国内でも改正個人情報保護法が成立し、個人情報やプライバシーの保護するために、企業のデータ利用における法令遵守への厳しい運用ルールの整備は世界的な潮流となっています。
販売戦略を転換するD2Cブランド
今まで多くの予算をFacebookを中心とするデジタル広告に投下し、トップラインを伸ばしていたD2Cブランドも事業の方向性の転換を迫られています。中にはリアル店舗への転換をしたり、マーケットプレイスなどにチャネルを広げるブランドも増えています。
その中でより今までのようなサードパーティデータ(3rd Party Data)に頼らず、ゼロパーティデータを収し、ユーザーから承認したデータを活用することによりユーザーとのエンゲージメントを高め、長期的な関係性を構築しようという考える企業やブランドが増えています。
ゼロパーティデータ(Zero Party Data)とは何か?
ゼロパーティデータとは何か?という部分については議論もあるようですが、Fatemeh Khatiblooの定義によると「顧客自身が意図的、かつ積極的にブランドと共有したい情報、たとえば購入意向や、個人的な文脈、自身をブランドにどう認識してほしいか、といったデータ」(参考)とされています。
具体的には以下のような情報が含まれます。
ゼロパーティデータ例
- 趣味や関心事に関する情報
- 好きな商品やブランドに関する情報
- 使っている製品やサービスに関する情報
- 顧客サポートへのフィードバック
- 使っているアプリや行動履歴に関する情報
- ウェブサイト上でのアンケート回答やメールマガジンの登録情報
このように通常のトランザクションでは取得できないデータをゼロパーティデータと一般的に呼びます。その他にも以下のようなデータ属性が存在します。
ファーストパーティデータ(1st Party Data)
ファーストパーティデータとは、第三者を経由せず、企業やブランドが独自で収集したデータを指します。
ファーストパーティデータ例
- 購入や問い合わせ、会員登録で集めた顧客の性別・年齢、住所などの情報
- 自社サイトでの購買履歴や行動履歴、購入金額などの情報
- アンケートの回答やその分析データ
- 名刺データや議事録等の記録
- SNSやツールでのコミュニケーション履歴
ファーストパーティデータは企業やブランドが直接入手した情報であり、収集方法が特定できることから、信憑性の高いためマーケティング活動の効果性を高めたり、精度を向上させることができるデータと言えると思います。
セカンドパーティデータ(2nd Party Data)
「他社が取得したファーストパーティデータ」であり、データを購入したり事業提携などの形で第三者から取得するデータになります。
例えばホテルなどが取得した宿泊するユーザーのファーストパーティデータを、航空会社やレンタカー会社などに提供することにより、購買につながる可能性の高いターゲットユーザー情報にアプローチ可能にするなどの方法があります。
サードパーティデータ(3rd Party Data)
第三者により収集されたデータで、多くのケースではDMP(データマネジメントプラットフォーム)により収集されたデータを購入する形になります。
今までは多くの場合このサードパーティデータを活用してデジタル広告は運用されていました。しかしデータ収集に必要なCookieの廃止問題やプラットフォームのトラッキング制限により、サードパーティデータの精度や信用性が劣化しているということが現在の問題とされています。
ゼロパーティデータとファーストパーティデータの違い
ゼロパーティデータとファーストパーティデータは少し違いが分かりづらいかもしれません。ファーストパーティデータとの大きな違いは、単純な取引やトランザクションデータからは得ることができないデータであるということです。ユーザー一人ひとりに寄り添った顧客体験を創出するにはゼロパーティーデータが必要です。
ゼロパーティデータ | ファーストパーティデータ | |
収集方法 | ユーザー自身が自発的に提供するデータ | 企業やブランドがドランザクション等で収集したデータ |
性質 | ユーザー自身が自分に関する情報を提供するため、精度が高く、ユーザーの意図や好みが反映される | 企業やブランドが収集したデータであるため、ユーザーの意図や好みを反映していない場合がある |
プライバシー | ユーザーが情報を自発的に提供するため、プライバシー保護の観点から優れている | 企業やブランドがユーザーのデータを収集することになるため、プライバシー保護に対する懸念がある |
活用方法 | ユーザーの意図や好みに基づいた、よりパーソナライズされたサービスやオファーの提供、企業やブランド自身のデータ収集や分析の向上 | 顧客属性分析、顧客行動分析、顧客嗜好分析、市場調査、広告ターゲティングなどの目的で使用される |
ゼロパーティデータが価値あるのはなぜか?
パーソナライズの実現
ユーザーの一人ひとりのニーズや生活スタイル、関わるコミュニティは多様化しています。企業やブランドはユーザーに応じて提供するコンテンツやサービスをカスタマイズする必要が出てきています。
多くのユーザーに利用されているサービス、例えばAmazonやNetflix、Googleなどを体験しているユーザーたちは自分の好みに合った情報がレコメンドされることに慣れています。これらのニーズに対応するためには従来のファーストパーティデータだけでは、顧客インサイトに基づいたパーソナライズは実現できません。
エンゲージメントを高める
単純な価格訴求ではすぐユーザーは別のサービスにスイッチしてしまいます。ユーザーに対してお買い得だけではないベネフィットを提供することにより、優越感や満足感を感じてもらうことが必要です。
ロイヤリティを高めるインセンティブを提供するためには、顧客インサイトが重要です。
どこに価値を感じて商品やサービスを利用しているのか、今のライフステージでどんなことをポジティブと考えていて、どんなことをネガティブと感じているのか、どんなコミュニケーションを好むのか、などを示すゼロパーティデータはユーザーに対して商品やサービスを訴求する際にとても有益なデータです。
オンラインとオフラインで活用可能
ゼロパーティデータはオンラインだけでなくオフラインでも収集可能であり活用できるものなので、実店舗など中心のビジネスがオンラインを強化するなどの場合でも、おいても顧客接客などにより様々な方法でデータ収集・活用が今後進んでいきそうです。
ゼロパーティデータを集められるツール
Klaviyo
主にEコマース企業向けに提供されているオールインワンのマーケティングオートメーションプラットフォームです。ウェブサイト上でのポップアップフォームや、アンケートフォーム、購入フォームなどでファーストパーティデータを収集できるツールです。また、顧客データを蓄積し、セグメンテーションやパーソナライゼーション、ターゲティングなどに活用することができます。
Octane AI
Octain AIはクイズや診断コンテンツを手軽に作り、顧客のインサイトを収集し、ショッピング体験をパーソナライズするサービスです。ユーザーの好みの色や好きな映画、お気に入りの香りなどインサイトを得られるクイズを答えるとパーソナライズされたレコメンド商品を生成し表示します。
ゼロパーティデータの活用事例
THE NORTH FACE
アウトドアブランドのTHE NORTH FACEはXPLR PASSというロイヤリティプログラムをスタートさせました。『冒険で世界を切り開く』というブランドパーパスの世界観に沿って、ユーザーが自分らしさを表現できるプログラムをつくることで、エモーショナルロイヤルティの基盤が構築しました。製品購入以外にもユーザーがエンゲージメントできる機会を大幅に増やしました。
XPLR PASS特典
- 製品購入時に加え、THE NORTH FACEの店舗や国立公園にチェックインしたり、友達を紹介したりすることでもポイントが付与される
- 店舗にマイバッグを持参すると、環境保護に貢献したとしてポイントが付与される
- 専門家の助けを受けられる専用カスタマーサービスが利用できる
- メンバー限定のフィールドテストに参加できる
- 各種イベントに参加できる
- 限定商品を購入できる
購入以外にも友達を紹介したり、マイバッグを持参して環境へ貢献、などのアクションにもポイントを付与します。これにより、ゼロパーティデータを取得でき、顧客を十分に理解し、顧客に適切なコンテンツでアウトドアでの体験を豊かにする製品を提供することができます。
LACOSTE
アパレルブランドのLACOSTEの定番商品は「半袖のポロシャツ」です。初回購入者の大半が定番商品の「半袖のポロシャツ」を購入するため、購買データのみをもとにレコメンドすると、永遠に「半袖のポロシャツ」をおすすめし続けることになります。
「長袖ポロシャツ」の販売拡大を狙い、「利用シーンや好みを顧客に聞く」という定番的な接客手法をオンラインで実施することによりゼロパーティデータを収集しました。
すると従来の2倍以上の反応率を得られたということです。
Airbnb
Airbnbはホストに対して、稼働率、1泊あたりの平均料金、注目度などのリアルタイムおよび過去のリスティングデータなどのゼロパーティデータを追跡して、ホストに合わせてパーソナライズされたダッシュボードを表示します。ホストは表示されたデータを活かして、たとえば、需要が少ない日にはスペシャルオファーを提供するなどして、予約率を増やすことができます。
ゼロパーティデータの活用におけるビジネスの効果性は?
小さいブランドにとってどれだけのゼロパーティデータを集められるのかは限界値があります。
取り扱っている商品やターゲットユーザーの属性などにより、ゼロパーティデータの収集や活用の効果性が得られないブランドや企業もあるかもしれません。引き続きサードパーティデータを活用する企業やブランドが多いでしょう。
eコマースにおいてはやはり購買に関するあらゆるゼロパーティデータ、ファーストパーティデータを保持するAmazonなどが強いと言われています。Amazonはより広告プラットフォーム強化を行う方針です。またD2Cブランド自体が自社のオーディエンスデータをブランドパートナーに提供するようなツールなども活用して、相互にユーザー送客のネットワークも広がる可能性があります。
ロイヤリティの高い関係性を構築するにはゼロパーティデータは重要な戦略になります。マーケティング業界では「顧客は嘘をつく」といわれますが、本音をどうやって引き出せるか?ブランドや企業がユーザーが丁寧にユーザーとコミュニケーションし、顧客インサイトを深く理解するとゼロパーティデータの質が上がり、長期的な視点でブランドベネフィットを提供することが可能になります。
ぜひ自社のeコマースの中でゼロパーティデータへの取り組みを始めてみるのはいかがですか?
参考資料
iOS14 から1年、広告主が変化を振り返る:「デジタル広告に対する考え方を変えることに」
※本記事は一部、ChatGPTを活用して記事作成しています。